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東京高等裁判所 昭和39年(ラ)52号 決定

抗告人 飯野清 外三名

訴訟代理人 丹羽鉱治

相手方 飯野絲子

主文

原審判を取り消す。

本件を浦和家庭裁判所熊谷支部に差し戻す。

理由

抗告人らは、主文同旨の決定を求め、その理由は別紙記載のとおりである。

一、抗告理由(一)について、

原審判は、第二物件の二分の一の持分権のみが遺産であつて分割の対象となり、清を除く抗告人らは各自右の遺産に対し相続分を有していることを認めながら、同抗告人らは右の遺産に対し相続分を受けとることができないと判断し、その理由として、被相続人が同物件を抗告人らの相続分にかゝわらず、相手方に取得させる意思表示があつたと判示している。かゝる被相続人の意思表示は審判の理由に記載するところによれば贈与であると解されるので、そうだとすれば同物件は相続財産とならないわけであつて、前記認定と矛盾し、また、相続財産であるとすれば右抗告人らに相続分を与えない根拠が明らかでない。したがつて、この点に関する原審の理由は矛盾があるか、又は、不備である。

二、抗告理由(四)について、

相続財産につき相続人のうちのある者が遺産分割前に勝手にこれを処分したときは、その財産に代り同人に対する代償請求権が相続財産に属することとなり、これが分割の対象となると解するのが相当である。ところで、埼玉銀行株式九百株は相続財産に属したところ相手方絲子が勝手に処分したことは、原審判の認定したところであるから、その代償請求権を分割の対象に加えなければならない。右に反する原審判の判断は失当である。

三、したがつて本件即時抗告は理由があるのでその余の抗告理由の判断を省略し家事審判規則第一九条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 千種達夫 裁判官 渡辺一雄 裁判官 岡田辰雄)

抗告理由

(一) 原審判は遺産の範囲を別紙第二物件目録記載の建物(以下第二物件という)の二分の一の持分権のみであるとし、右第二物件の全部を遺産の範囲に含めない理由として、右物件は被相続人が被抗告人と同居婚姻するに当り、買求めたもので、その売買代金の約半額は被抗告人が支出しており、しかも被相続人は右物件を被抗告人名義とする意思を有していたことを挙げているが、右の如き事実はない。即ち右建物購入の価格は金五十万円であるが、その際被抗告人は八万円程度を一時立替支出したに過ぎず更にその後被相続人が約十五万円を投じて造作を加えたもので、その購入費の大部分は被相続人が支出したものである。また特別の契約のない限り婚姻中夫婦の一方がその名義で得た財産はその一方の特有財産となることは民法第七六二条の規定するところであるから第二物件はその全部が遺産の範囲に含めらるべきである。

(二) 原審判は抗告人等のうち、抗告人清は別紙第一物件目録記載の建物(以下第一物件という)の生前贈与を受けたとしてその全体を相続財産に含めて相続分を定めているが、右第一物件は、昭和三十四年八月二十五日被相続人から抗告人清及びその妻三千代長男春雄に贈与されたものであり生前贈与に該当するのは抗告人清が贈与を受けた部分即ち第一物件の三分の一の持分である。

(三) 原審判は、抗告人武井ともは被相続人から婚姻費用として金一〇〇、〇〇〇円の生前贈与を受け抗告人関根うめは同じく金五〇、〇〇〇円の生前贈与を受けたとしているが武井ともは昭和三十四年十一月(被相続人死亡後)に婚姻したもので被相続人から右の如き生前贈与を受けた事実はない。また関根うめは右の如き贈与を受けた事実はない。

(四) 原審判は、相続当時存在した埼玉銀行株式九〇〇株はすべて被抗告人が費消したことを理由に相続分を定める基礎となる相続財産に含めていないが、右の財産が分割の対象となる遺産に含まれるかどうかは別として相続開始当時存在した財産は相続分を定めるに当つては相続財産に含めて計算すべきである。

(五) 以上の理由により、相続財産としては、次のものが含められなければならない。(1) 第二物件全部 (2) 第一物件の三分の一の持分 (3) 埼玉銀行の株式九〇〇株(相続開始当時の埼玉銀行株式の時価は一株金六二円であつた。)右のうち第二物件、第一物件の相続開始当時の価格が仮りに原審判の言う如く、夫々七五九、二七二円、三〇四、三九六円であつたとすれば、右相続財産の総価額は第二物件の価格七五九、二七二円、第一物件の価格の三分の一 一〇一、四六五円 埼玉銀行株式九〇〇株の価格 五五、八〇〇円合計九一六、五三七円となり、抗告人、被抗告人の取得分は、抗告人は各金一五二、七五六円但し、抗告人清のみは、生前贈与金一〇

一、四六五円を差し引いた金五一、二九一円、被抗告人は金三〇五、五一二円となる。従つて抗告人清を除く抗告人の相続分は八一五、〇七一分の一五二、七五六、抗告人清の相続分は八一五、〇七一分の五一、二九

一、被抗告人の相続分は八一五、〇七一分の三〇五、五一二である。

(六) 本件遺産分割は右の各人の相続分に従つて第二物件全部の分割をなすべきである。そして、右分割に当つては、相続開始後宅地建物の価格の騰貴していること、被抗告人は前記埼玉銀行株式九〇〇株を恣に処分しまた生命保険金を受領して利益を得ていること等を考慮して分割をすべきであり原審判の如く第二物件を悉く被抗告人に与えるときは、相続財産の大部分が被抗告人に帰し抗告人ら(就中、飯野辰五郎、開根うめ、武井とも等)の相続権を否定するに等しく極めて不当である。原審判は被相続人が第二物件を被抗告人に取得せしめる意思を有していた(又これを表示した)として第二物件全部を被抗告人に取得せしむべきであると述べているが、右のような事実は全くない、この点で原審判は事実を誤認したものであるが、仮りに右のような事実があつたとしても原審判の如き処分をなせば抗告人は正当な遺言によらないで相続分を奪われ遺留分すらも侵害されることとなり到底これを容認し難いところである。よつて御庁において改めて関係者その他必要な資料をお取調べの上適正な分割をなされることを求め本件抗告に及んだ次第であります。

第一物件目録

埼玉県比企郡小川町大字大塚宿四四の一

家屋番号 大塚一二六

一、木造瓦葺二階建店舗兼居宅 一棟

建坪 十一坪五合

二階坪 六坪二合五勺

同所

家屋番号 大塚一二五

一、木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗兼居宅 一棟

建坪 十六坪五合

二階坪 七坪

第二物件目録

埼玉県比企郡大字大塚字春日井戸二四九

家屋番号 大塚三二九の三

一、木造瓦葺二階建校舎 一棟

建坪 十九坪

二階坪 十六坪

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